ソーシャル・ネットワーク

デヴィッド・フィンチャー監督、アーロン・ソーキン脚本、ジェシー・アイゼンバーグ主演。
今年僕が最も期待を寄せていた作品、『ソーシャル・ネットワーク』を観てきました。

オープニングからまさしく息もつかせないような言葉の奔流に心を奪われます。とにかく最初からアクセル全開で、その怒涛のテンションのまま最後まで迷うことなく突き進んでいくので終わってみると「あれ?もう終わったの?」と感じてしまうこと請け合いです。
おもに会話主体で進むため、派手なアクション、スペクタクルシーンなどはないのですがそれでもやはりセリフ運び、テンポの良さ、映像や音楽のセンスが抜群に良いので超良質の心理的ジェットコースタームービーとして最初から最後まで心から楽しむことができました。
マークが早口に喋りすぎるので字幕の表示も出ては消え出てはすぐ消えを繰り返すといった感じで、本当にスクリーンから目を離すことが許されない二時間でした。溢れ出んばかりの情報に身をゆだねて、観終わった後には心地の良い疲労感が頭の中に居座り続けます。自分の脳みその情報処理能力をフルに使って臨まなければ振り落とされてしまうほど濃厚かつハイスピードな作品でしたので、ここはまあハマれなかった人はとことんハマれないと感じてしまう人もいるんでしょうね。

さて、特に俳優陣で素晴らしかったのはやはり主人公、マーク・ザッカーバーグを演じたジェシー・アイゼンバーグですね。

とにかくこのマークの早口言葉のようなセリフに込められた情報量がとてつもないのです!ただでさえ字幕を負うので精いっぱいなのに、字幕からやむを得ず漏れ出た情報はさらに多いのだろうと想像が簡単にできてしまうのですからこの脚本の出来は凄まじい。そしてその量のセリフを訥々と語りあげてみせるジェシーの演技は脱帽モノです。
ゾンビランド』の時は共感を呼ぶタイプのヘタレっぽい役だったのに、

一変してこちらでは簡単には感情移入を許さないタイプの孤高の役柄を見事に演じ切っていました。改めて実感しましたが、役者の変わり身というものは本当にすごいですね。寒さを感じていないかのような振る舞いや、ビール瓶を投げて渡すのを失敗しても平然と再び投げる様子など、思考レベルだけでなく感情、生理的な面においてもどこか常人離れした人間であるという印象を強く感じました。マークはおそらく疎まれていたり低く見られていたのではなく、ありとあらゆる面で常人とは格が違いすぎるので恐れられていたのでしょうね。だから友達も少なかった。でも、ラストにどこか人間味を漂わせるカットを持ってきて終わらせていくのはうまいなー、やられたなーと強く感じました。しかし、そのの表現方法もどこか歪んではいたのですがね。だからこそ哀愁を強めていた。

最後に劇中で使用されていた音楽のことに関して少しだけ。
NINE INCH NAILSトレント・レズナーが手掛けた音楽は当然どれも素晴らしく合っててこの映画を時には盛り上げ、時には没入させてくれるのですが、僕としてはエンドロールでThe BeatlesのBaby, You're a Rich Manのイントロがかかってきた瞬間に頭が沸騰しそうなくらいにうれしくなって、それからしばらくは冷静に物事を考えることができませんでした。とにかく歌詞の内容も非常に示唆的で、この映画の要旨と見事にマッチしているんですよね。つまりこの映画の内容は非常に通俗的なものなんです。(逆に言えば現代でも通用する歌詞を書いたビートルズの先見性、通俗性も凄い)約40年前に書かれた歌詞の内容が現代劇にもここまでフィットするのですから。繰り広げられる会話や飛び交う単語はそれこそ最先端のIT関連のものや複雑な経済、法律に関するものばかりなのですが、根底に流れるものは人間の原始的な感情、欲望なわけで。

長々となってしまいましたが、とにかくこの作品は大傑作でした。オスカーを争うだけの出来は保証されたものだと思います。ぜひ劇場へ。この作品は音響設計もとことん劇場向きだと思うので、そこらへんも含め観ていただきたい内容となっていました。