私的2010年度劇場公開映画ベスト10!

はい、と言うわけでやってまいりましたこの季節。すべてを総括し、来年に向けて新しい視点を向けるための大事な時期。

“今年、日本で、劇場初公開されたもの”というしばりで、今年鑑賞した2010年に劇場公開された54本の映画から10本選出しました。もはやベスト10に選出される作品ともなると作品の出来うんぬんよりも僕自身の思い入れ、愛情が色濃く反映されたランキングになっておりますのでいささか世間とずれた視点からの物言いになっていたりする可能性があるのですが、そこはどうかご了承のほどを。

では、第10位からカウントダウン方式で!

No.10 告白

監督:中島哲也 主演:松たか子

今年最も物議を醸す対象だったのではないかと思われる問題作とともに大傑作。この作品が映画か映画でないかなんて議論は僕にとってはさほど重要な問題ではなく、ただひとえに面白かったし、素晴らしかったと思うのでベストに選出した次第。ひたすらにクールな映像、スタイリッシュなBGMの選曲、過激・衝撃的なストーリー展開などすべての要素が僕の五感を刺激してやまなかった。その映像世界に溺れ、魅了される。
すべてが終わり、劇場内の照明が付いてもみなどこか現実に戻り切ることができないかのように漂っていた重苦しい空気を僕は忘れることができない。松たか子の鬼気迫る狂演、岡田将生の空虚さ(ところで今年公開された『悪人』でも最低の頭空っぽ下衆野郎を演じていましたね。汚れ役でも見事に演じて見せるその姿勢が好きです)、木村佳乃の自分の子どもを疑うことを知らない歪んだ無垢さなどすべてが印象的。

予告

No.9 人生万歳!/Whatever works

監督:ウディ・アレン 主演:ラリー・デヴィッド

今年最後の映画館納めとして選んだこの作品だったが、見事にマイベストに滑り込んできてくれた。こんなにもド直球なハッピーエンドを見られて本当に幸せ映画締めになったと思う。観てる最中口角ずっと歪みっぱなし、微笑ましくてたまらなかった。劇場もほぼ満員、空き座席を探すのに苦労したほどの混雑で、皆が全身でこの映画を享受している喜びを僕も共有できて、本当に幸せな91分だったように思う。
ストーリーの展開は強引、いわばご都合主義が全開な内容ではあったものの、むしろそれはウディ・アレンが意識的に「これは映画なんだ」というメタ的意識で以てこのような構成となるにいたったのではないかと僕は考える。主人公のモノローグも僕たち観客に向けてのものだったしね。そもそもこの映画の原題の時点で“Whatever works”=「なんでもあり!」だったりで。人生には喜びも悲しみも混在していて、どんな状況でも光は見えてくるし、幸せになる為ならなんでもありなんだよ!と全力で肯定してくれる愛すべき人生賛歌。

予告

No.8 オーケストラ!/Le Concert

監督:ラディ・ミヘイレアニュ 主演:アレクセイ・グシュコブ

この映画の最後の演奏シーンは圧倒的な是のパワーで満ち溢れていて、9位の人生万歳!が言葉で満ち溢れた人生賛歌だったことと比較し、むしろこちらは言葉で語らない人生賛歌だ。口に出さずとも奏でる音で心は通じ合うし、観客の心にも陳腐な言葉以上の説得力の強さでもって語りかけてくる。メラニー・ロランの美しすぎて恐ろしいほどの姿をスクリーン上でどアップで見ることができたのも本当に嬉しい体験となったし、なによりもチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が素晴らしすぎる!今ではテレビなどでこの旋律が聴こえてくるたびに自然と涙腺が緩みそうになってしまう。序盤から終盤にかけてのひたすら冗長な展開も、いま考えてみればすべてラスト10数分間への前振りだったのだと思えるし、そう思えてしまえば映画全体が素晴らしくいとおしいものとなる。僕もこの映画のように全力でもってこの映画を肯定していきたいと思う。

No.7 第9地区/District 9

監督:ニール・ブロムカンプ 主演:シャルト・コブリー

凄まじいほどの熱量でもって描かれる最後のドンパチに心は震え、目元は緩む!最初から最後まで異常なテンションで描かれるこの物語に心を掴まれないでいられようか。人間臭い宇宙人・通称エビたちの生活様式、エビたちよりも外道な人間たち、しかしこの二つの種族が共通の目的を見いだしタッグを組むことにより、思いもしなかったケミストリーが巻き起こる。ボンクラ銃撃戦、宇宙人のいかしたデザインの武器、エビ型パワードスーツなどもうツボりまくって仕方ない!ピータージャクソンが見出したこのニール・ブロムカンプの才能、これでデビュー作だなんて、この先どのような名作が生み出されるのかと考えてみると空恐ろしい。彼の次回作が心より待たれてならない。

予告

No.6 キックアス/Kick Ass

監督:マシュー・ボーン 主演:アーロン・ジョンソン

主演の欄には便宜的に主役、キックアスを演じたアーロン・ジョンソンの名前を挙げているが、正直なところは幼きヒーロー、ヒットガールを演じたクロエ・グレース・モレッツこそが真の主役だと言いたい。バタフライナイフを巧みに操ってみせるシーンがあるのだが、聞くところによればあの部分はノンスタントで彼女自身がやって見せた技なのだそうだ。そんなことを聞くともう余計に惚れこまざるを得ない。もちろん彼女以外にもユーモアあふれる日常描写や、派手な切り株描写に軽快な音楽をつけてその毒を薄めたあたりも工夫されていてこの映画の印象をどこかさわやかなものとしている。
ただ、原作の描写は陰惨なものがあり、印象ががらりと変わっていると言う話もきくのでいつかは原作も購入して読まなければなあ、とは思っている。

予告

No.5 ぼくのエリ 200歳の少女/Lat Den Ratte Komma In

監督:トーマス・アルフレッドソン 主演:コーレ・ヘーデブラント

スウェーデンの片田舎。雪の白。少年の肌の白。血の赤。炎の赤。深々と降る雪。静寂に包まれた小さな世界。とにかくワンシーンワンシーンが詩情にあふれていて美しい。どこか夢現のように終わりを告げるこの物語の先に待ち受けるは、果たして希望か絶望か。いわばホラー映画として描かれたこの作品なのだが、直接的なホラー描写は実際のところ少なく、どちらかというと間接的なれど精神の奥の方にズンと沈み込んでくるような場面が多い。この詩的な世界をハリウッドリメイクでぶち壊しにされやしないかと戦々恐々ではあるのだが、前述のキックアスで最高の演技を見せてくれたクロエ嬢が今作でいうエリ役を演じるそうなのでひとまずそれだけで大期待できる。

あとこれは本当に何度も繰り返して言うことになるけど、ストーリー説明上大事な部分にぼかしを入れてしまったのは許しがたいこと。物語の意味が変わってしまう上に、美しい世界を急激に低俗なものにされたような気分になってしまいぶち壊し。最近観た『フローズン・タイム』(女性の一瞬一瞬の美しさを芸術的に描いた非常に美しい作品)でも同じことを思ったりしたなあ。なにはともあれ作品自体は大金星の出来であった。

予告

No.4 トイ・ストーリー3/Toy Story3

監督:リー・アンクリッチ 主演(声の出演):トム・ハンクス唐沢寿明ティム・アレン所ジョージ

No Toy Gets Left Behind.(俺たち、だれも置いていかれなんてしやしないさ!)本編を見た後でこの文章を読んだだけでもう涙腺崩壊。もう幼いころからこのトイストーリーシリーズを観て育ったと言っても過言ではなく、アンディと殆ど年齢も一緒だったので思い入れや愛情が半端なかったので、この映画がこんなに優しく美しい終わりを迎えてありがとうとしかピクサー陣に言えないのがもどかしいほど胸の中に幸せな感情が巻き起こる。本当にマスターピース、心の底から大事にし続けたい。言うまでもなく途中の展開などもこの上なく素晴らしくて、非常にナイスだったキャラクターのケン、お笑いポジションをうまく確立させたミスターポテトヘッド(ex.ミスタートルティーヤヘッド、ミスターキューカンバーヘッド)などギャグ面の描写も極上だったし、何よりも特筆すべきなのは終盤、溶鉱炉に向かって進みゆくベルトコンベアの上、死を覚悟した仲間たちが目を閉じお互いの手を握るしぐさ…!CGアニメーションがここまで克明に死の恐怖を我々に感じさせるシーンがこれまでにあったろうか。もう反則。子供向けの作品などと侮るのは愚の骨頂。言うまでもなくウッディがアンディに別れを告げるラストシーン、アンディは全てのおもちゃに対しちゃんと大切な思いを抱いていたと吐露するシーンでは劇場で嗚咽を挙げる寸前まで涙をこぼした。僕たち観客は、おもちゃたちが動くことはないと人間たちが思いこんでいるという前提を知っているが故にこれほどまでに感動が募るのだ。完全無欠、有終の美。

予告

No.3 インセプション/Inception

監督:クリストファー・ノーラン 主演:レオナルド・ディカプリオ

始めてティーザートレーラーを見たときから心待ちにしていてやまなかった作品。上映1週間前には本予告を何回も何回もリピートして、日に日にハードルをあげていた。その期待値を軽々と飛び越え、そのさらに斜め上を飛び去ってゆくノーランの頭脳の構造に脱帽。多重構造の夢世界で、どの層においてもタイムリミットが刻々と迫ってくる緊張感と、ノーランの生み出した複雑なルールについていこうとして頭の中はオーバーヒート寸前。知的好奇心をくすぐってやまないまさに夢のような映画。観終わったあとには心地よい疲労感、この世界を飲み込みつくしやり切った達成感が頭の中に心地よい重さでもって居座り続ける。ヤンデレモルさんを鬼気迫る演技でやりきったマリオン・コティヤールがこの映画のマイベストアクター。

予告

No.2 ヒックとドラゴン/How to Train Your Dragon

監督:ディーン・デュボア、クリス・サンダース 主演(声の出演):ジェイ・バルチェル田谷隼

ツイッターで知って観に行って本当に良かった部門第二位にして、2010年度マイベスト二位。心の底から愛おしく素晴らしい。優しくて弱虫だけど奥には強いものを秘めており、いつか大きなことをやってやるぞと考えている主人公と言う時点で感情移入しまくって、そこにあの猫のようなデザイン、しぐさのトゥースレスが加わって破壊力は爆増。ドラゴンの背中に乗って大空を自由に飛び回りたいというのは僕の原始的な衝動だし、それをたとえ映像と言う形ででも現実化してくれたこの映画には感謝してもしきれない。試行錯誤を重ねていき次第にトゥースレスをうまく乗りこなせるようになる過程や、ドラゴン同士の対決なども本当に無駄と思うシーンがどこにもなく、98分ずっと駆け抜け最後にはさわやかな感動が残る。ヒックはトゥースレスがいないとやっていけない、トゥースレスもヒックがいないとやっていけないというこの共依存関係はゾクゾクするほどに美しい。

予告

No.1 リトルランボーズ/Son of Ranbow

監督:ガース・ジェニングス 主演:ビル・ミルナー ウィル・ポールター

ツイッターで知って観てよかった部門の一位にして、2010年度、ともすれば生涯ベストに食い込まんほど愛おしい作品。これこそ新世紀の『ニューシネマパラダイス』だと僕は声を上げて主張する。完璧。反則。もはやワンシーンワンシーンごとに涙が出そうなほどに可愛らしく微笑ましい。娯楽を禁じられた子どもが自分の本に募り募った妄想を存分にラクガキしたり、その彼が初めて観た娯楽作品、『ランボー』により夢を爆発させて自分で映画まで撮ってしまおうだなんて、映画好きの僕が涙せずに観られようか!
子供だから当然人員も足りないし、費用も足りないしカメラワークもてんで素人のホームビデオみたいなものなのだが、彼らの映画に対する愛情と子どもなりの柔軟なアイデアで産みだされたその映像は心の奥底に深く深く刻みつけられる。スカしたフランス人留学生もとてもいい味を出していたし、何よりもムスッとした顔のカーターが顔をくしゃくしゃにして泣くシーンなどは本当にたまらない。映画というものは必ず編集されたものであるということを逆手に取ったラストの演出にも脱帽。この作品、観た直後からベスト入りすることは間違いないと確信していたのだが観たあと日が経つにつれて僕の心の中でどんどん存在が膨れ上がって、最終的にはマイベストに選出することとなった。いつまでもいつまでも吟味して、大事に残していきたい作品である。

予告


ベスト10まとめ
1.リトルランボー
2.ヒックとドラゴン
3.インセプション
4.トイストーリー3
5.ぼくのエリ 200歳の少女
6.キックアス
7.第9地区
8.オーケストラ!
9.人生万歳!
10.告白