冷たい熱帯魚

2/3木曜日、ティーチイン付き先行上映@シネ・リーブル梅田に行ってきました。平日の夜遅い回の上映にもかかわらず客席はほぼ満員、いかにもな映画好きが場内に集い、期待と興奮に満ちた一種異様な熱気を漂わせながらの上映開始となりました。
本編の前にまず今秋上映予定だと言われている、今回観た『冷たい熱帯魚』に続く園監督の新作『恋の罪』の特報が流れました。この『恋の罪』も相当に衝撃的な内容であろうことはその短い映像からでも伺えましたので、今から非常に正式公開が楽しみな作品となりました。

さて、ここから本編の『冷たい熱帯魚』について。
まずやはり特筆すべきであろう、キャスト陣の圧倒的な演技。殺人鬼村田を演じるでんでんの人の良さそうな非常に人懐っこい顔が、冷酷な殺人者の顔つきに変貌していくさまなどは心凍るものがありました。ところがこの村田、恐ろしいことに人を殺す過程、または死体を解体する作業などとてつもなく残酷なことをやらかしている最中にもにこやかに笑みを浮かべたり、場違いなギャグ、セリフを泰然といってのけるのです。その、あまりにも極限的な状況とシュールな発言との大きなギャップに観客は思わず笑ってしまいます。現に僕もあらゆる局面において大笑いしていました。不謹慎だとか悪趣味だとかそういう感覚は不思議と浮かばなくて、極限状態に追い込まれるとなんだか笑えてしまうんだな、なんてことをずっと考えながら観ていました。もちろん、村田のこれまたクレイジーな嫁を演じる黒沢あすかの鬼気迫る、かと思いきや妖艶だったりする極上の悪女っぷりも素晴らしすぎるほどに素晴らしかったですし、村田に染め上げられてゆく吹越満の頼りないいかにもダメな父親、夫っぷりもすごく生々しくリアルなものがありました。社本の妻を演じる神楽坂恵は、少し演技が硬い部分もあったかなと見受けられる点もあったのはあったのですが、そのぎこちなさ、硬さも彩りのない生活に疲れた嫁、母、女としてこれまたリアリティが出ていて結果的には大きなプラスだったのではないかなと思ったりもしました。園監督の話によれば、前述した次回作の『恋の罪』(こちらにも神楽坂恵は出演している)ではさらにブラッシュアップされた演技を見せているということでこれまた期待が高まります。女優さんたちがバンバン脱いで濡れ場もガッツリやって、こんなに生っぽい邦画を観たのも久々だったのでなかなかにその面でも衝撃は大きかったです。近ごろの生っちょろいテレビ局主導の映画に対し真っ向からつばを吐きかけ、「これぞ映画だ、テレビで放送なんかできねえだろ!」と宣戦布告しているかのような映画でした。いやあ確かにこれは地上波放送なんてできたものではないですね。他人にも無邪気に「面白かったよ!」などと話題に上げるのも躊躇われる内容なのは確かです。血もドバドバ出ますし、下世話ですし暴力に満ち溢れていて希望など一欠片もないですしね。“分かっている"人とじっくり腰をすえて話したくなる、そんな映画でした。

まあそういった意味で易々とおすすめするのはちょっと違うのかもしれませんが、少なくとも僕個人的にはこの映画を欠かして今年一年の映画を総括して語るというのは考えられないレベルの映画だと思います。「我こそは映画好き!」と自負する方は是非にでも観るべし!